男と女 Un Homme et une Femme No2「刷り込み:恋愛の精神病理学的考察」

よし子Aさん(仮名)の表現は興味深く、大変、すばらしかった。うまい、なんとも言えず「男と女」の心の関係を衝いている。了承をいただいて、彼女の言葉を書いている。当然ご本人の個人情報は含まない程度に変更してある。

 前回、古典的な精神病理学では、恋愛は「妄想知覚」か、あるいは「意識障害」に分類される話をした。標準的な精神病理学をかじった人なら、前回の理論構成で「恋愛の精神病理学」は終了する。? 

 一方、よし子Aさん学説は、あの有名な動物学者コンラート ロレンツか、シートン動物記か??

初めてよし子Aさんが当クリニックへ見えたとき、大変機嫌が悪く、「プリプリ、カンカン」怖かった。というのも、付き合っていた男性に別れ話を持ち出され、あまりの腹立たしさに暴れたところ、彼が当院を受診させたのだそうである。?

「まあ~まあ~、そう怒らんと~、数回、頭冷やしに来る~?」の私の言葉に誘われて、何回か当院にやってきてくれた。いろいろと話をする。うち解けてみると、なんと、チャーミングで聡明な人であった。?

数回目のセッションで、? 「私もわかっているんです、あんな男のどこがいいのか、早く離かれたほうがよいのはわかっています。 でもね、先生、あれ(彼)はね、私の初めての男なんです、わかりますか、鳥の雛が孵ると、最初に見たものをズッと親と思い込むんでしょ、それなんですよ・・・{刷り込み:Inprint}とか、いうんでしょ、だから離れられないんですよ~~」。

よし子Aさん、うまい!小説家?動物学者?精神科医??

その後何回か、彼女はやってきてくれた。次第に落ち着いて暴れることもなくなった頃、?

「先生、雛もね、大人になるでしょ、そしたら、巣立ってゆくでしょ・・・私もその時期が来ているんでしょうね・・・・」と笑いながら話すようになった頃、彼女は当クリニックを、卒業というより「巣立っていった」。?

頭のよい人というより、人の気持ちのよくわかる人、中途半端な精神病理学者より「人間通:Menschenkoenner」!すばらしい自己分析・・・・フゥ~ム参った

よっちゃんA、今頃どこを飛んであるのかな~。元気でね!(仮名)

ご本人の了解をいただいたうえ、ご本人と同定できない程度に改変してあります。

男と女 Un Homme et une Femme No1「一目惚れの精神病理学的考察」

 その昔「一目会ったその日から、恋の花咲くこともある、サァ~、パンチでデート」という視聴者参加番組があった。私の友人も出たそうな。
 「一目惚れ」は、古典的な精神病理学では、簡単に、端折って言えば、「妄想知覚」あるいは「意識障害」に分類されるそうである。

 まったく、精神病理学者という人たちは意地が悪い。仲のよい男女の関係を横目で見ながら、腹の中でこんなことを考えているのだから。「妄想知覚」とは「実際の知覚に理由なく一定の意味が与えれるもの:たとえば町で見知らぬ女性を見て自分の恋人であると体験する」(精神医学事典:弘文堂)。

 今回の話に、ぴったりの例が書かれている。それが訂正不能の判断であっても、お互い男と女の睦まじい関係が、ズウッ~と、ズウッ~と持続する場合、これは「恋愛」でもあり「妄想」と呼ぶことが出来る。どちらかがそう思わないときに、片思いということになる。知人のカップルを見ていても、どうしても、どこがお互いをひきつけているのか、他人の目からはわからないことがしばしばある。恋は「モウモク」である。妄想も訂正不能の判断の誤り?である。
?一方で、このような男と女の睦まじい関係が、一定期間過ぎた後、醒めてしまうことがある「夢:意識障害」から醒めるのである。「ハァ~、なんでこんなんに(男)(女)に惚れたんやろう」とため息混じりに、相手の厭なところばかりが、目に付き始めることがある。意識障害から醒めたのである。少し前の言葉で「成田離婚」という言葉があった。夢を見ている時の睡眠は、生理的な意識障害である。

入局したての新人に医局の馬鹿話として受け継がれる類のものである。残念ながら、私の在籍の長かった大学医局では、歴史が浅いためか、こんな習慣はなく、他の大学の親切な先生に耳学問をさせていただいた。精神病理学というとどんなに難しい話かと思うと初めは緊張したが、・・・アハハ・・・おもしろかった。興味津津・・・よく「勉強」した。
?今では、大学医局制度が崩壊し、また酒を飲みながらの、こんな馬鹿話もしなくなってしまった。心の栄養になるような話がなくなった分、薬の治療が増えてしまっているのか?。臨床、つまり患者さんの「お手伝い、お役」にはこんな話のほうが、役に立つのではないかと思うのだが・・・・。