小さい頃から吃音(どもり)で苦労してきた。からかわれたり、真似をされたりした。両親も治そうと頑張ってきた。治そうとすればするほどひどくなった。
自分のような嫌な思いをする人を手助けしようと自分は言語療法士になった。学生の間はなんとか「どもらず」にすませてきた。ところが、いざ吃音の患者さんを前にしてみると、緊張しては自分も吃音が出てしまう。精神科でなんかで治らないと思いながらも、なんとかしなければと藁にもすがる思いでやってきた。
「あのノノの ノノノ・・・・・・・・」「 吃音なんですすすすす・・・・・・・」
そこで、いつもの逆説志向、「思いっきり、どもりましょう」数10分どもる練習をした。
どもろうとすればするほどできない自分に気がついた。
アア、ヨカッタヨカッタ治ったねというと、本人の複雑な表情をする。
何十年の間困っていた吃音が治ったのに、浮かないのである。
自分は何十年も苦労した、吃音の治療だけが言語療法士の仕事ではないが、自分は吃音の治療をするために言語療法士にまでなった。
なんとあっけなく治ってしまったのか。言語療法士になる苦労はなんだったのかと思う。
困った、彼のアイデンティティーが無くなってしまった。吃音の治療は終了したが、なんとなく複雑な気持ちであった。