「きっかけは楽しく喋りすぎ」:楽しく喋りすぎてPanic障害になった話

昔から、大阪弁で「女人よれば、かしましい」というが、この人、よし子さんと話していると、大変楽しいが、たった1人で「かしましい」のである。とにかく早い、1分あたりの字数は800~900文字くらいだろうか。とにかく息せき切って喋っては、楽しそうに笑う、そしてなかなか止まらない。ご本人によれば喋りたいことが「イッパい、イッパい」あって、すべてみんなに教えて、一緒に楽しんでほしいのだそうである。この人が3人いたらどんなことになるだろう。それに対して、私の喋り方は、普通400字詰め原稿用紙を約1分より遅いかもしれない。対照的である。足して2で割るくらいがよいか。

よし子さんCは、話をしていると、手足がしびれてきて、呼吸ができなくなるのではないか、胸がドキドキしてしまう、心配で、心配で仕方がないという。初めは定型的なPanic障害~過呼吸症候群だろうと考え少量のお薬を処方すると同時に、何か心配ごとでもあるのか、・・・・などいろいろとお話を伺っていた。多くの場合、背景に心配事があったりすることが多い。どうもこの人は違う。屈託がない、話も面白い、診察室が明るくなる。ただちょっと心配症。

そのうちにハッと気がついた、よし子さんCは喋りすぎて過呼吸を起こし、引き続いてその他の症状が出ているのではないか?

そこで、彼女にゆっくり会話をする練習をお願いした。あまりに早く喋りすぎて~喋りすぎて~喋りすぎて、過呼吸になっているのではないか?普通の人でも、急に走ったりして呼吸が荒くなると同様の過呼吸症状が出現する。

1)呼吸がはやく、浅くなると血液中のCO2分圧が下がるので、過呼吸症状群が生ずるといった理論を大昔学生のころに習ったのを思い出した。

2)昔、学会発表にため原稿を作るために教えられたのは、400字詰め原稿用紙を約1分で読むくらいの速さで話す、と教えられた。大昔のニュースをテレビなどで見ているとこのくらいの速さで話している。今の学会は皆忙しいから600文字くらいか。

この二つのことを、ゆっくり説明して数週間かけてその練習をしていただいた。なんとPanicが明らかに少なくなったとのこと、でも心配なので少量のお薬と通院は続けたいとのこと。

ブログに書く了解をお願いすると、「きっかけは楽しく喋りすぎ!」にしてほしいとのことであった。「楽しく」の一言「忘れたらあかんよ~」とのことです。屈託がないのである。

通院も「卒業」できるのにネ~と毎回診察の時に話をする。

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男と女 Un Homme et une Femme No2「刷り込み:恋愛の精神病理学的考察」

よし子Aさん(仮名)の表現は興味深く、大変、すばらしかった。うまい、なんとも言えず「男と女」の心の関係を衝いている。了承をいただいて、彼女の言葉を書いている。当然ご本人の個人情報は含まない程度に変更してある。

 前回、古典的な精神病理学では、恋愛は「妄想知覚」か、あるいは「意識障害」に分類される話をした。標準的な精神病理学をかじった人なら、前回の理論構成で「恋愛の精神病理学」は終了する。? 

 一方、よし子Aさん学説は、あの有名な動物学者コンラート ロレンツか、シートン動物記か??

初めてよし子Aさんが当クリニックへ見えたとき、大変機嫌が悪く、「プリプリ、カンカン」怖かった。というのも、付き合っていた男性に別れ話を持ち出され、あまりの腹立たしさに暴れたところ、彼が当院を受診させたのだそうである。?

「まあ~まあ~、そう怒らんと~、数回、頭冷やしに来る~?」の私の言葉に誘われて、何回か当院にやってきてくれた。いろいろと話をする。うち解けてみると、なんと、チャーミングで聡明な人であった。?

数回目のセッションで、? 「私もわかっているんです、あんな男のどこがいいのか、早く離かれたほうがよいのはわかっています。 でもね、先生、あれ(彼)はね、私の初めての男なんです、わかりますか、鳥の雛が孵ると、最初に見たものをズッと親と思い込むんでしょ、それなんですよ・・・{刷り込み:Inprint}とか、いうんでしょ、だから離れられないんですよ~~」。

よし子Aさん、うまい!小説家?動物学者?精神科医??

その後何回か、彼女はやってきてくれた。次第に落ち着いて暴れることもなくなった頃、?

「先生、雛もね、大人になるでしょ、そしたら、巣立ってゆくでしょ・・・私もその時期が来ているんでしょうね・・・・」と笑いながら話すようになった頃、彼女は当クリニックを、卒業というより「巣立っていった」。?

頭のよい人というより、人の気持ちのよくわかる人、中途半端な精神病理学者より「人間通:Menschenkoenner」!すばらしい自己分析・・・・フゥ~ム参った

よっちゃんA、今頃どこを飛んであるのかな~。元気でね!(仮名)

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逆説志向No1:社会不安障害、パニック障害、強迫性障害、過呼吸発作・・・の精神療法、治療

「ギャクセツ シコウ」と読む。ロゴセラピーという精神療法の技法である。ウィーンのV.E. フランクル という精神科医が数十年も前に創った。

社会不安障害、強迫性障害、赤面恐怖、対人恐怖、過呼吸発作、パニック発作、書痙(しょけい:人前で字を書こうとすると震えてしまうような症状)、吃音(どもり)、閉所恐怖などの症状にお困りの患者さんに劇的に効果がある。

もうこんな精神療法の一種があることも、「逆説志向」などという言葉を知らない精神科医が多いのではないか?

最近では、上記のような障害には、薬物療法を中心として、精神療法的には認知行動療法、内観療法などが主として行われるが、なぜこの治療法があまり用いられなくなったのか?不思議である。

あまりに劇的に効果があるので、はやらなくなった???薬物療法を続けておくほうが当然医者としてはエネルギーは少なくて済む?

むしろ、V.E. フランクルといえば、「夜と霧」というほうがご存じの方が多い。一方でこのような素晴らしい、精神療法の技法を残しているのである。

精神医学大辞典(講談社)にはその理論として、以下の様に説明している。

「不安神経症(現在のパニック発作に相当するであろう)の患者は不安発作を恐怖し予期不安におびえてこれらの不安から逃れることに腐心し、強迫神経症(現在の強迫性障害に相当するであろう)は強迫に対して不安を強め、強迫観念を抑えつけようとたたかう・・・・・、このように不安から逃れようとすればするほど、強迫に逆らえば逆らうほどかえって不安や強迫は強化され・・・」症状は悪化する。「これに対して、逆の方向に志向しようと努める。・・・もっと不安にもっと強迫的になろうとする。」

このように非常に逆説的である。

精神医学大辞典だからこのように大変わかりにくい。簡単なことを、難しそうに説明しようとするのが学者の役目である。

だから、わかりやすいように、多くの場合以下の様な図を書いて患者さんに考えてもらう。

症状:(強迫性障害、赤面恐怖、対人恐怖、パニック発作、書痙、吃音、閉所恐怖、電車に乗れない、飛行機に乗れない、過呼吸発作・・・・) ↑

変な風に見られる、格好が悪い、人に見せたくない

隠そうとする、やめようとする↑

また、症状が出るのではないか。(期待不安):不安の増強

↓ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒

期待不安がキーワード

 上記の悪循環を断ち切るためには、どこを切るのが最も手っ取り早いか?

 そしてヒントとして、多くの患者さんは、診察室に入るやいなや、この症状を隠そうとしないで積極に症状について話していることを指摘する。診察室では症状は出ない、なにしろ患者さんは症状を治療者に見せなければならないのだから。?そこで多くの方は「ハッと気がつく」、そう医者の前では隠そう、やめようとせずむしろ積極的に見せているからである。

 そこで、症状の復習、私の前で、患者さん本人の症状を出す練習をしてもらう。診察室の中で確認:強迫性障害、顔を赤くする:赤面恐怖、対人恐怖、パニック発作:パニック発作、書痙、吃音、閉所恐怖、電車に乗れない、飛行機に乗れない、過呼吸発作・・・・、多くの場合、出そうとすればするほど、症状は消失してゆく、後は「もっと自信を持って、症状を出す練習を、さらに次回までの宿題としてお願いしておく」、たいていの患者さんは、数回この様なセッションを行うと、症状は消失するか、軽快する。

最初、患者さんは、たいていこの話をすると、懐疑的あるいは心配でその一歩を踏み出せない。だから、薬物療法を少し、ほんの少し行うと、「宿題をする際」に踏み出しやすくなる。

大体1~2週間に1回、数回くらいで軽快状態に入る。?症状が軽快し始めたら、薬物療法のやめてゆき方を指導する。うまくいったら「卒業」である。だいたい数カ月、本当にうまく行けば、1~2回のセッションで「卒業」する。

この治療法は、V.E. フランクル著:高瀬博、長瀬順治 訳「現代人の病」―心理療法と実存哲学―(丸善)に詳しい。当院に来院しなくても、うまく理解できる方ならこの本をお読みになることをお勧めする。

学生時代、二日酔いで苦しむ私に、ある同級生が「お酒を一日飲んだだけで、二日も酔っていられるなら、それは幸せであると考えろ」と言った。これもある意味、逆説志向、私も二日酔いになるほどお酒を飲まなくなった。

ご本人の了解をいただいたうえ、ご本人と同定できない程度に改変してあります。

文献

1)精神医学大辞典(講談社)

2)V.E. フランクル著:高瀬博、長瀬順治 訳「現代人の病」―心理療法と実存哲学―(丸善)

Munk(ムンク)の「叫び」

Munk(ムンク)展が兵庫県立美術館で2008年1月19日から始まったのでさっそく見に行ってきた。(4月21日ではもう終了しているので注意してください。)

 残念ながら有名な「叫び:Geshrei(独語:ゲシュライ)」はなかったように思う。昔、ある大学で講義をしていたとき、統合失調症に関して、Munk「叫び:Geshrei(独語)」という作品について話をした。学生に聞くと、多くがあの奇妙な顔のおじさん?が叫んでいるのだと思っていることがわかった。同様にかなり以前のこと、ある放送局のラジオコマーシャルで「コンピューターを用いて、あのおじさんの骨格から考えられる、叫び声を再現したという声」を放送していた。今でも忘れられないあのこっけいな声、なんと!おじさんはかなり低い声で「ホッ、ホッー!」を叫んでいるのだ、そうな!最近の日経新聞にも取り上げられ、この「叫び」の絵の話であのおじさん?が何を叫んでいるのだろうという問いに、ある子供は「キャー、かつらが飛ぶー」と答えたそうな。一部の学者にはこれは「幻聴が聞こえる」ので怖くて耳を押さえているのだという人もいる。?

 フム!名画は種々の解釈ができる!!

 Munk自身は、このモチーフでたくさんの作品を描いていて、ストックホルムの名前は忘れたがある小さな美術館にある小さな作品の中に、メモのようなものを次のように記している。「Ich fuehlte das Gescrei durch die Nature.」(ドイツ語のウムラウトという字がないのでfuehlteは ueでご勘弁ください。) つたないが訳してみると「私は自然から叫びを感じる」と書いてある。?

? 統合失調症の患者さんたちのひとつの症状として妄想気分というものがあり、「周囲の何か異様な雰囲気、何か自分の周囲で奇妙なことが起こっているような感じがする、自分の周囲が奇妙に変化してしまう」といった症状を感じる人たちがいる。難しい言葉で言えば「実存の危機」と言うらしい。病気でない人たちには、決して感じることのできない、理解できない恐怖・不安らしい。?

 Munk統合失調症という病気に罹ることによって、この作品を生み出した。?