書痙(しょけい):人前で字を書こうとすると震えてしまうような症状は、「逆説志向:ギャクセツ シコウ」にうってつけの症状である。
書痙の患者さんは比較的多く当院にお見えになるが多くは数回の逆説志向のセッションを行うと治ってしまう。
簡単、例のごとくに図を書いて患者さんに考えてもらう。
症状:書痙 字を書こうとすると震える ← ← ← ← ← ← ←
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格好が悪い、変な風に見られる
↓
人に見せたくない
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隠そうとする、止めようとする
↓
また、症状が出るのではないか。(期待不安):不安の増強 ↑
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(期待不安がキーワード)
そして、やおら鉛筆と紙を取り出して、意識して一生懸命震えながら、住所や名前を書いてもらう。多くの人は最初の数行は震えるが、2~3行も字を書いているとむしろ震えられない自分を見出す。ついでにカルテを見せて、私の字を見せる私の字のほうがきたない。私は悪筆で有名なのである。ある患者さんカルテを見て「ドイツ語かと思いました」だって、私は、カルテは患者さんにも見てもらってもよいように日本語で書く主義である。
このような逆説志向のセッション、数回1~2週間に1度する。その間に人前で出来るだけ、震えるつもりで字を書く練習をしてきてもらう。多くの患者さんは数回で楽になるという。?薬物療法も多くは緊張がひどいときのみといった処方で済む。
多くの人が数年にわたり困っているという。この治療法は私が好んで利用する、心療科で、これほど劇的な効果がみられるものも少ないからである。
ある患者さんは、あまりに劇的な改善を見て、泣かれてしまった「格好が悪いといって数年にわたって家にこもって出れなかった」。数回セッションで手の震えが止まり「いったい私のこの数年はなんだったんだろう」と泣かれてしまったときには、私もうれしかったがびっくりした。
私は女性に泣かれるのは弱いのである。
ご本人の了解をいただいたうえ、ご本人と同定できない程度に改変してあります。
文献
1)精神医学大辞典(講談社)
2)V.E.フランクル:高瀬博、長瀬順治訳「現代人の病」-心理療法と実存哲学-(丸善)