やっぱり、前回同様、「こうろしゃ」とよむ。いわゆる、「行き倒れの人」のことである。
ある病院に勤務していた時、中年のおじさんが運び込まれてきた。今回はアルコールせん妄、わかりやすくイメージするには酔っぱらって、興奮しているのがながびいているような状態を想像していただくと良い。チャンと治療して、うまく冷めてくれれば良いが、かなりの人はそのまま認知症になる。アルコール依存症の人たちに、時に見られる状態である。
この人は、このせん妄状態が長引いて、なかなか醒めてくれず、認知症になってしまうのではないか心配した。遷延性せん妄と言って長引けば長引くほど、認知症への移行することが多い。この間この人のお名前、住所、ご家族全く分からずどうしたものかと心配した。1?2ヶ月も続いたであろうか?やっとこさ、醒めてきた。
この人が、きっちり醒める少し前に大学人事で、私は別の病院に転勤していたので、後は別の医師が担当していた。この先生と久しぶりにお会いすることがあって、気に掛かっていたこの「アルコールせん妄」の人のことを聞いてみた。
私が転勤後もしばらくは、軽度のせん妄状態が続いた。後やっと、ご自分の氏名、住所、家族などについて話してくれたとのことである。
ナントナント、この人は大阪でも有数の名家のご出身。ご家族は大阪でも有数の繁華街に、いくつものビルをお持ちのかただったそうである。
「エ?エ?、あのビルも、このビルも、あの人のビルですか?」というほどの方だった。繁華街に疎い私でも、聞けばわかるほどの有名なビル。
何故そんな人が、「行路者? 」「アルコール依存症」か?そこには複雑なご家庭の事情があったという。
「人生いろいろ」精神科医療は小説より「いろいろ」である。