行路者No1

「こうろしゃ」とよむ。いわゆる、行き倒れの人のことである。

最近高齢の方の行方不明が問題になっている。

ある精神科の病院にいた時のこと、中年のおじさんが運び込まれてきた。この人、道で頭から血を流して倒れているところを救急病院に搬送されてきた。どうも喧嘩をしたらしい。一応の検査、治療は行われたが、身元を示すもの何も持っていない、さらには意識はあるのだが、何も話さない。このため身元もわからず、家族にも連絡が取れない。精神疾患が疑われ搬送されてきた。

早速に診察を行う、世間話などはするが、なかなか氏名住所など、ご自身のことについては話さない。別に、幻聴や妄想めいたことを言うこともない。「全生活史健忘」一般的な言葉でいう記憶喪失などを考え様子を見ていた。

鍵のかかる病院にも関わらず、特に驚いたり、嫌がる様子もなくなんとなく、入院生活を送る。そんなこんなで一月も過ぎた頃、次第に馬鹿話にも乗ってくるようになり、ポロリと身の上話をし始めた。氏名 は ??田×男であり、住所も話してくれた。良かった良かったと、早速にその住所に住むという ??田×男のご家族に連絡した。

しばらくして、ナントナント!!?? ??田×男氏「ご本人」から連絡があり、入院中の人物は ??田×男氏とは全く関係なく、心当たりもない。なぜそういうことが言われるか分からず、ご立腹であると連絡があった。

結局、私がこの病院に在籍している間には、この人 ??田×男氏で通した。この先はどうなったかは不明である。

この話を、大先輩の精神科の先生に話していたら、「そんな話、ようある」と言われた。他人の人生を借りたくなるほどに、人にはいろいろあるのである。

特に大阪のような大都会では、種々の事情で身分を明確にしたくない人が多いという。小説のネタのような事が精神医学の臨床には多いのである。

他人の人生を名乗ってしまわざるを得ない、この人の、歩んできた人生に思いをはせる。

薬は本当に必要か?

医者に行けば薬が出ると思っている人が多い。

本当に薬が必要か?

薬の必要のない、よくあるパターン 2種

1)老年の不眠

高齢のかたが、「寝れない」、という時には、簡単な質問、「何時に寝て何時に起きますか?」と必ず聞く。

お年寄りの不眠でよくあるのは、「寝れない」というので、よく話を聞いてみると、宵の口何もすることがない、TVも面白くないので、8時から寝る。すると3?4時に目がさめてしまう、朝早くに目が覚めて困る、早く起きても何もすることがないので薬でもっと寝ていたい。

この人たちには、良?く、説明した上で、すまんけど、もうチョット遅くまで起きていていただくようお願いする。または早く起きるのは当然と考えるべきであると説明する。

高齢の方に睡眠薬を変に出すと、ふらついて転倒したり、せん妄を起こしたりする。目上の方が多くて、なかなかお願いしにくい場合が多い。

2)アルコールの不眠

お酒を飲むと、大抵は眠りが浅いので、早く起きてしまう。これはアルコールの作用であるので、お酒を飲んだら、眠りが浅い、早く目がさめるのは当然と考えるべきである。多いのは中年のサラリーマンさん、眠りが浅く早く目が覚めてしまう。よーく、聞くと、かなりの深酒、すると眠りが浅い、早く目がさめる。

この人たちには、お酒を飲んだら眠りが浅く、早く起きるのは当然と考えるべきであると説明する。

3日でいいからお酒を止めてみることを提案する。1?2日ではあまりにわからないが3日禁酒すると、熟眠できることが実感できる。

大抵は抗議の感情を込めて「エーエーッ」大声で反応する人が多い、酒飲みは、なかなか言うこと聞いてくれない。私もその一人。

ある患者さん、やっとこさ、説得に応じてくれた。

「1、2日では分からなかったが、3日したらわかりました、頭がスーッと進むし、体が軽い、俺、天才ちゃうかな、と思いました!」だそうです。

こういう説明と説得は、ハイハイと薬を処方するより手間暇かかる、また嫌がられることがあるので、要注意です。

指きり!

約束!約束!

患者さんとよく指切りをする。

心配、心配。

「死んでやる!」、「薬を飲まない!」、「薬をたくさん飲んでやる!」などなど心配せてくれることばかり、言う。

そこで約束!約束!

「ごめん、余計なお世話かも知れんが、僕にも君を心配するぞ~~~!」  約束やで!

指切り!

診察室には、「心配をさせてくれる人」が多い。

2015-01-07 18:30:40 薬を飲んでいないのに薬がなくなる話
不安障害、パニック障害の方々、次第に症状が軽快してくると、クリニックを卒業しましょうということになる。

不安なときの服用するお薬も、減量を開始、毎日しっかり服用から→ 時々忘れる→ 時々飲む→ ついで「と?きど?飲む」へと変わってくる。

「お守り代わりです」と言いながら、10回分程度のお薬で、半年?1年を長持ち、でもやっぱりお薬が手元にないと、心配で来院する。

いつでも服用できるよう、ポケットにでも入れておいてください。いつでも服用できる、という安心感があると、かえって服用しないですむ。 ポケットや財布にお薬を入れていると、プチプチに入っていても、種々の圧力がかかったり、擦れたりして、粉々になってしまう。

結局飲まない間に粉になって飲めなくなる。

実質、薬をなまないのになくなってしまうのである。

商社マンの憂鬱

彼は生粋の商社マンなのである。いつの間にか外国語大学を卒業、何も考えない間に商社に入社、入社以来、ズズズウウウ~と海外勤務が続いた。最初はアメリカ合衆国、アフリカ、インド、南米・・・・もう何年も海外勤務、外国暮らしのほうが長くなってしまった。怖い所も、やばいところもいっぱい行ってきた。炎熱商人なんて小説があったっけ。

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商社マンとしての手腕???それは、それはみんなに一目置かれる。そんなこんなで本社勤務を命じられた。

そんな彼がなんと、会社に行こうとすると、不安で、不安で、息苦しい、アアアー苦しい、アアアーしんどい。世界中でも怖いところ、やばいところもいっぱい経験してきた彼が、である。本社勤務が不安なのである。

そこで当院にやってきた。聞けばどうも、派閥あり、狭い空間、狭い人間関係、ゴチャゴチャした人間関係あり。しんどいね、宮仕え。

広い世界相手に飛び回ってきたのに・・・息苦しいな~~~。

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そんなこんなで、彼の希望も聞いて、海外出張を増やしてもらえるよう会社と相談することにした。会社としては「うつ」の人をいくら本人の希望といえ海外出張に出すのも心配という。モットもな心配。

そこで奥様の登場、なかなか家庭的な会社で奥様がお願いすると、それではやってみましょうとOKがでた。良い会社です。

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なんとなんと!生き生きした彼に戻り始めた。インド、アフリカの田舎のほう行きましたね。危険ないですかね、言いだしっぺの私も少し心配です。

ところがところが、当の彼、月に1度の海外出張すっきりしますね~~~息を吹き返しました。結局、以後定期的に海外出張することで元気取り戻しました。今は、狭い日本、狭い派閥もなんのその。当院は卒業よかったですね。

日本のためにもがんばってよ~!

私の部屋には、彼から頂いた「ガネーシャ:インドの知恵の神様」が私を見守っていてくれている。ガハハと笑うのがよく似合う人です。