当院の診察室に入ると必ず、寝転がって帰る人がいる。
「あ~気持ちええわ、ここが一番安心するわ!」。
よしおさんは、社会不安性障害である。初めて当院に見えたとき、奥様に付き添われ、自転車に乗ってお見えになったが「フラフラめまいがして怖くて乗れない、倒れてしまいそうだ、道で倒れたらどうしよう」、自転車に乗るどころか、家を出て、歩くことさえもやっとという状態であった。他院に通院していたが一向に変わらず、ちょっと離れた当院へ見えた。
初診のときより、社会不安性障害と診断し、いつもの逆説志向をすることにした。「そんなに倒れのが心配なら、医者のいるこの目の前で倒れてごらん、必ず何とかしてあげるから」と約束し、診察室の中でいすから降りて大の字になってみることを提案した。はじめはよしおさん、「こんなところで寝転がったらめまいがして立てなくなる」、奥様も懐疑的で、そんなものといった様子。そこで奥様もご一緒にというので、私も一緒になって診察室の絨毯の上で寝転がった。
ご心配なく当院の診察室、待合はスタッフが朝から心を込めてきれいに掃除を毎日してくれている。
なんと!「ええわ~、先生気持ちええわ~、めまいなんかないし、ほっとするわ!」以後、彼は私の診察室に来ると、一度寝転がってから帰るのである。最近ではかなりよくなったので、寝転がる回数も減ったが、時々「先生ええか~ちょっと寝転がって、やっぱりあんしんするわ~」とのことである。
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