診断の重要性について:その1)

先に書いたように「こころの病気」といってもたくさんあります。それぞれにその治療法がことなり、またその患者さんのひとりごとにその方の人生がありお一人ごとの人生観もおありでしょう。そのため治療法は大まかには方向性があるでしょうが、やはりお一人ごとのオーダーメードの治療を考える際その診断にいたる過程は重要で患者さんの「お人柄」「考え方」を反映させる必要があると考えます。そのためにはその方の症状をしっかりとお聞きし把握する必要があります。多くの場合「メンタル科」「心療内科」を受診される場合、他科で種々の検査をたくさんたくさん受けてこられ、多くの場合他科の検査結果は「問題なし」といわれ、お困りの場合が多いようです。

 今回は「こころの病気」の代表格である「うつ病」について、というと、多くの方が「うっとうしい」「やる気が出ない」「感情が不安定である」「寝付けない、夜中に目がさめる、早く目がさめる、夢ばかり見て寝た感じがしない」などの感情あるいは気分の症状のみを考えてしまうのではないでしょうか。ところがうつ病の患者さんの大半が身体的症状、なんとなく「胃の辺りが重苦しい」「のどの辺りに何か詰まったような感じがする」「食欲がない」「何か口の中が何かおかしい」などの、特に「消化器」症状を呈されます。このためうつ病は古来「メランコリア:メラン(黒い)コリア(胆汁):黒胆汁症」と呼ばれていました。1400年~1500年にかけての有名な画家であるデゥーラーの「メランコリア」はそんな点で有名です。この「頬杖をつく人」はどのようなお気持ちなのでしょうか?

消化器症状 以外にも「頭痛」「めまい」「動機がドキドキ」「呼吸が荒くなる」・・・・などのいわゆる「自律神経失調症」と呼ばれるような種々の症状が見られ、このような場合「自分がなにかの身体的病気ではないかと心配で仕方がない」といったいわゆる「心気症:ヒポヒョンドリー」と呼ばれる状態となり、いろいろな病院で検査をして回るいわゆる「ドクターショッピング」という状態になります。このような調子で、大昔にはうつ病のことを「ヒポヒョンドリー」と同じ意味に使っていた時期があります。

このためには、このような身体症状の背後に隠された「心の症状」をしっかりと把握する必要があるでしょう、悲しいことに、このような場合患者さんご自身はなかなかその「心の症状」に気づいておられないことが多いのです。身体的な検査を受ければ、受けるほど心配になってくるよくある話です。

次回はその典型例「仮面うつ病」について、そこはかとなく書いてみむと思います。