「あっれ~~こんなとこ、白髪生えてる、ヒャーヒャーホホーッホホーッ」とおどける彼の声を聞きながら何となく複雑であった。この人、仕事しているとき、あんな難しい顔してるのに、こんな楽しそうな声もだすんだ。
?
白髪といっても「白毛」がただしいだろう。彼が見つけなければ、一生、誰にも、自分にさえも見つからなかったであろう「白い毛」。
?
もうそんな歳になってまったのか。子供を育てることに一生懸命、母であることに、がんばってきた。「女」であることを一歩引いて。
?
もうすぐ子供たちも独立、なんか「人生って不条理」だと思う。
?
?
「友白髪の会」やね、ガハハと、彼は笑う。彼も自分と同じ年頃に、同所にやっぱり「白い毛」を見つけたという。
?
抜いてやろうと思ったら大変痛かった、やっぱり切ることにした、鏡にうつして、キャ~ 変な格好やわ~、子供に見せられ変わ!切りにくいな~~。
?
?
彼がつぶやく斉藤茂吉の歌、
?
ミュンヘンにわが居りしとき 夜ふけて陰(ほと)の白毛を切りて棄てにき
?
いきどほり 遣(や)らはむとする方(かた)しらず 白くなりたる鼻毛 おのれ抜く
?
(斉藤茂吉)
?
?
「茂吉さん、きっと、この毛、抜いてやろうとひっぱたら、痛くて腹立って、鼻毛ぬいたんやワ、そしたら、また、痛かって、腹立ったんやわ~~ それで切ることにしたんやわ。」
?
「なんや、こんなことわかる歳になってしもたな~~、なんか腹立つわ、見つけんでもええのに!」次ぎに逢ったら、たくさんごちそうしてもらおおう~っと。
?
当然ご本人の了解はいただいているが、本人が特定できない程度に変更してある。
?
?