定年退職

「久しぶり??!ヤット無事に定年退職迎えました。その節はお世話になりました。」とご夫婦で挨拶にみえた。にこにこ、さわやかなお顔である。

確かに久しぶり、あれから数年、当院の卒業生の方である。

50歳前半、その人は初診してきた。会社に行くのが、辛くて仕方がないと言って見えた。

会社に出ると息苦しくて、息苦しくて仕方がない。「もう辞める、今すぐ辞める」と言って聞かない。

「とにかく、そういう大切な判断はせず、とりあえず休養を取ってよ?く考えてみては」と提案するが、辞めると言って聞かない。奥様もお越しいただいて、相談するが「頑固やからね?」「仕方ないね?」とニコニコ、なんとも良い奥様、貞女の鏡である。

私もちょうど同年代、大丈夫かいな。私の方が危機感を煽られる。「よ?く考えなはれ、諸事情、特に経済的に大丈夫かいな?」と大阪弁でとにかく休養の説得をして、休養していただいた。

こういう場合の大阪弁は耳障りがよい。

休養して、色々と二人で話し合った。

「辞めて何かしたいことあるの??」

「ない」

「 趣味あるの?退屈するで?」

「ない」

「やめてなにしまんのや?」

「ない、なにもせん」・・・・・「金魚に餌やって暮らす」

「何か別の仕事あてあるの?」

「ない」

「まだ年金ももらえんやろ??年金まだやろ~!」

「まだや」

「家族どう喰わすの?」

「なんとかなる」「嫁さん仕事してる」

「まだ50代前半やろ?、世の中がまだ必要としてくれてるんやで?」

「もういらん」

確かに頑固である。なにか、もう高校時代の友人との会話のようである。

世間話も含め、いろいろ話し合った。仲良くなった、同志になった。中年オジサン同盟。

数ヶ月、やっとこさ、頭が冷えて現実が見えてきた。この間、将来的に、収入のこと、年金のこと、趣味のこと・・・仕事やめての生き甲斐・・・色々とお考えになっていたようである。

「シャ?ないな、とにかく定年退職までは会社にいくわ?っ」

ということで数年前に当院卒業した。

そして、やっとこさ、念願の定年退職、年季明けを迎えられたというわけである。

ご夫婦ニコニコと晴れ晴れ、意気揚々と帰って行かれた。奥様も間も無く退職し二人の新しい生活、人生が始まるのである。

大団円、よく頑張られましたね、おめでとう、ハッピ?リタイアメント!