6.うつ病になりやすい性格傾向:「努力してさぼります」話

古典的な意味での「うつ病」患者さんは独特の性格傾向がある。確かに日常うつ病患者さんと接しているとしばしば感じる。?

とにかく、まじめ!!!、几帳面、熱中性、仕事熱心、凝り性、正義感などが 1930年代に、下田という人によって指摘されていて、全くその通りである。少し遅れてドイツでもテレンバッハという人が同様の性格傾向 として 「メランコリー親和型」ということを唱えた。ドイツ人と日本人のメンタリティーはよく似ているのであろうか、その他の国ではあまりこのような研究はない。さらにもうひとつ、「対他的配慮」つまり自分の周囲の人に対して細やかな気遣いをする、ということを笠原先生という人が唱えている。?

 Aさんは典型的な「うつ病」の方である。まじめ一方、仕事が趣味のような方、人から仕事を頼まれると断れない、一度始めた仕事は徹底的にしないと気がすまない。仕事は120%する。つまり頼んだ相手の期待以上の仕事をしてくる。そんな、こんなで社会的評価は高い、このため「あの人に任せておけば・・・・」というのですぐにみんなに頼られる。「対他的配慮」があるので仕事を頼まれると断れない。結局、がんばりすぎてへばって当院へやってきた。 ?

 多くの場合、このタイプのうつ病の方は、比較的薬物療法がよく効く、1-2週間でかなりよくなったので、再発防止の意味で「うつ病の方の性格傾向」の話をした。社会的には十分過ぎるくらいがんばっているので、あまりがんばりすぎず、仕事も適当に手を抜くように説明した。?

 生真面目なAさん曰く、「努力してさぼります」・・・・とのこと、「ウームどうもわかっていないようだな~」、致し方なし。 

 「Geduld, Geduld, immer wieder Geduld: ドイツ語:辛抱、辛抱もう一回辛抱:私が心の医者になって最初に習ったドイツ語:患者さんがどうもわかってくれていないようでも辛抱しなさいというこころ医者への格言」を、心の中で唱えながら、さらに丁寧にもう一度「うつ病の方の性格傾向」の話をし、、「努力してさぼります」は、「なんか変ですね」と水をむけると、やっと気がついたのか、二人で大笑い。?

 最近やっと自分のペースをつかめてきたとのことである。

心療内科の病気全般について:基本的な考え方:心理学との相違

心療内科でお手伝いする病気はおもに3種類あります。

1)からだの病気がもとになって出現してくるもの(身体因)
2)何か原因がはっきりしないが、どうも体の中の何かの異常が起こっているが今のところ原因がわからないもの(内因)
3)何か心理的につらいことがあってその反応として生じてくるもの(心因)
例えば、広い意味での、「うつ病」「うつ状態」と呼ばれるような症状はこの1)-3)どのような原因でも生じてくることがあります。このため診断を考えてゆく際には、1)をまず疑い、次に2)最後に3)の順で考えてゆきます。これをたまねぎの皮むきにたとえて「皮むき診断:peel diagnosis」と呼びます。

広い意味での「うつ病」について説明いたしましょう。

1)の体の病気にもとづく「うつ」について、最近では、先の診断の項目でも書きましたように、心療内科を訪れる多くの患者さんは、その他の医院・病院さんで身体的な検査を受けてからこられます。実際当クリニックでは問診を十分にしておりますと、ほとんどの方が検査を受けてからこられていますので、前の病院の結果をお聞きするだけのことが多く、ご本人とも相談した上、血液検査などを行うことはほとんどありません。

つまり2)と3)の違いを見る必要があります。この違いはかなり難しく、初めて受診された方から十分な問診が必要となります。ただし、慣れた「心の医者」ならば症状を十分お聞きすれば、その違いは大体の察しがつきます。それに応じて問診の仕方、方向性も変わってきます。
2)の場合、いくら聞いてもそのきっかけとなるような出来事が見当たらない。ただし、これらにも例外的な患者さんたちがいます。例えば「昇進うつ病:職場で自分地位があがってうれしいはずなのにうつになってしまう」「燃え尽きうつ病:苦労してやってきた仕事が完成して、本来はうれしいはずなのにうつになってしまう」「婚約期うつ病:婚約してうれしいはずなのに何か元気が出ない、うつになってしまう」・・・・・こんな例はたくさんありますのでうつ病の項目で書いてみたいと思います。

3)の場合「あ~そうか~、この人はこんなつらいことがあったんだな~」と自分の心に思い浮かべて「自分でもこんなことがあったらそうなるだろうな~」など、治療者が「お疲れ様です、ご苦労様でした」とお声をかけたくなるような共感できる事柄がある場合です。ただしこれも治療者の人生経験などによって大きく変わってきます。 例えば「子煩悩:コボンノウ」とカタカナで読めば、なんともない響きですが漢字で書けばなんと「子煩悩:なんと煩悩なのです:親子関係、子供に対する親の気持ちなどは、子供を持ってみなければわからないでしょう。こういった治療者の人生経験の相違によって、診断も治療もやっぱり変化するでしょう。
このためわれわれ「心の医者」は、種々の人生経験を経てみる必要があるでしょう。