患者さんに笑われる

また、患者さんに笑われてしまった。?

私の診察室からは、大きな笑い声がよく聞こえると昔から言われたものである。多くは患者さんと一緒に笑ってしまう。今回も私は笑われてしまった。しかも妙齢のお嬢さんにである。

よしこさんは、大手企業にお勤めになって、ほぼ1年仕事にも慣れて少し自分の時間を作ろうと、昔習っていたピアノをまた習い始めた。ところが、その先生の前に行くとカチカチになって手が震えてしまって、ピアノどころではない何とかしてほしいということでおみえになった。処方はほとんどなし、安心させるため、緊張したら使ってくださいと、頓用(困った時に使うこと)で安定剤を処方した。

例のごとく、逆説志向を行うことにして。「一度ここで震える練習をして見ましょう。私もしますから」と、よし子さんとともに、一緒に大きく震えながらピアノを弾く格好をした。なんと、彼女は全く震えていないのに気づいた。私は大真面目な顔をしながら、何とか彼女によくなってもらおうと、手の震える「名ピアニスト」を演じて見せた。我ながなかなかよく出来た演奏であった。

が!しかし、なんとなく彼女は、私を見ながらニヤニヤと笑っているのである。おかしいな~と思いながらも演奏は続いた。

2回目の来院「やっぱりピアノうまく弾けませんでした」とのこと。おかしいな~。私としては十分に彼女に効果があった自信があったのに・・・・

彼女いわく「違うんです、震えて弾けなかったんじゃないんです、先生(私のこと)の手の震える「名ピアニスト」が思い出されて笑ってしまってレッスンにならなかった、でも以後は楽しくピアノレッスンに行っている」とのことである。

「フム!!! なんということか!!!フム!!! 私の名演奏を!!!」?

治療2回で卒業!!! 2回目は、彼女は私を笑いに来ただけ・・・・複雑な気持ちヤネ!!!
まあいいか。彼女が楽しくピアノ楽しんでくれれば、私の任務は達成されたわけであるから。

ご本人の了解をいただいたうえ、ご本人と同定できない程度に改変してあります。

子供への愛情・夫への愛情

当院では、思春期の方もお見えになる。その際には、両親の付き添い、をお願いしている。病状説明、治療方針、お薬についてなど、ご家族にしっかりとご説明をするためである。そして最後に「何か、ほかにご質問は?」と聞く、成人の方でも、これをしておかないと私が何か気持ちが治まらない。

私自身のいわゆる「強迫症状」である。

ところで、話は戻って、未成年の方の診察・治療である。多くの付き添ってお見えになる親御さんたちは、動転しておられる。「自分の育て方が悪かったのでしょうか?私のせいでしょうか?」ご自身を責められる。このように親御さんたちに「浮き足立たれる」と未成年診断・治療は困難となる。

そこで、私はいつも言う「お父さん、お母さん、ご自身の子供さんに対する愛情を疑ってはいけませんよ~、考えて御覧なさい、スーパーにお買い物に行くでしょ、ああ、そうそう、あの子これ好きやったな~、そうそうこれもやったね、今晩のおかずどんなんが喜ぶかな」考えながら買い物してるでしょ、それで十分、あなたの心には、子供さんに対する愛情が、気がつかない間に出てきているんですよ!このように話をして、親御さんに自身を取り戻してもらい、落ち着いてくると、子供の方の治療がすすむ。

ところが、あるとき、妙齢の女性とこの話をしていたとき、

「私子供にやったら、そうかも知れんけど、旦那の買い物やったら、確か、うちの主人はこれ嫌いやったな、ソヤソヤ、これも嫌いやからこれにしとこと!買い物籠に入れてしまう」と思いますとのこと。その奥様と二人だけの、苦笑い、大笑いしながらの秘密。

子供への愛情、伴侶への愛情大きな差があります。

Freudは「愛と憎しみの葛藤の始まり」と言ったか、言わないとか、どこかで聞いたような気がする。

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